埼玉新英研2013年度10月例会

日 時: 2013年10月20日(日)午後1時30分
場 所: 武蔵浦和コミュニティセンター第9集会室

     さいたま市南区別所7丁目20番1号(サウスピア8・9階)

     http://www.e-map.ne.jp/pc/?cid=Saitama&kid=1166

     武蔵野線・埼京線 武蔵浦和駅西口

報 告:「定時制の英語の授業を通して見えること」

     松岡 元(川越工業高校定時制)

    「悪戦苦闘の6ヶ月を振り返る」

     山城 和美(草加市立新栄中学校)*

 *今年、新任の方で中1の授業の報告だそうです。

 

埼玉新英研10月例会報告

 10月20日(日)午後1時半から、さいたま市浦和コミュニティセンターで松岡元さん(川越工業高校定時制)と山城和美さん(草加市立新栄中学校)からお話を聞きました。この日は昼頃から雨脚が激しくなりましたが、それでも10名の参加者を得て、楽しくてためになる学習ができました。

■レポート①『夜間定時制高校の英語授業を通して見えること』(松岡 元さん)

  松岡元さんと夜間定時制高校との出会いは、学生時代に定時制高校の宿直のアルバイトをしたとき。そこで熱く語る定時制高校の教師や生徒たちに接していくうちに、「こういう仕事もいいな」と思うようになり、教職を目指すことになったとのことでした。アルバイトは何と3年3ヶ月の長期におよび、時には自習監督もお願いされたこともあったとのこと。この話を聞いたとき、私は昔ののどかな時代をとても懐かしく思い出しました。

 若い先生方はご存知ないかもしれませんが、当時は公立の学校では宿直制度があり、男子教員は当番で学校に泊まり、ガードマンのような仕事もしていました。松岡先生は鴻巣高校定時制からスタートし、そこで15年間勤務した後、全日制で8年間勤務している間もずっと定時制高校への異動希望を書き続け、10年前に現任校に赴任したという、根っからの定時制志向だったということがわかりました。

  はじめに定時制高校の生徒の様子が報告され、在籍生徒の7割が不登校生徒経験者と聞き驚かされました。また様々な障がいを持った生徒や複雑な家庭環境を背負った生徒がいて、年齢構成も幅広く(最年長の生徒は57歳)、教室は家庭のようだそうです。生徒たちは様々な困難を抱えているので、距離的に近い学校でゆっくりと学べるのが良いのですが、埼玉の定時制高校は減りつつあり、その数は松岡さんが新任の時の34校から、やがて17校に減るそうです。そのため生徒は経済的負担に加え、遠距離通学という身体的負担も負いながら勉強をしています。松岡さんはこの改善運動もしているとのことでした。

  定時制高校は生活指導が非常に大変ですが、教室には兄弟姉妹、父母、祖父母のような生徒や教職員がいて、こんなに面白い学校は無いということばを聞き、私は一度参観したくなり、さっそく11月に参観させていただくことになりました。

 現在1学年3クラスと2,3学年の1クラスを教えていますが、今回は1学年のコミュニケーション基礎英語(2単位)の報告を聞きました。クラスサイズは普通科25名、機械18名、電気17名と比較的やりやすいサイズ。授業で心がけている主なことは、①日本語も英語も書かせる、②45分授業の中で1回は指名し話しかける、③声を出させる、④毎回同じような質問をする、⑤定期テストには感想を書かせ返事も書くようにしている。

 1学期は単語のつづりの定着を図り、授業中に書く練習時間を確保ししていましたが、例えば lisiten を書くとき、単語が読めない生徒はl-i-s-t-e-n とアルファベットを書き並べているだけということがわかり、ローマ字指導の必要も感じて4時間程ローマ字練習も行いました。それでも書けても読めない生徒がまだいて、2学期からは書く練習から綴りと読み方と意味の表を埋める作業的なプリント学習に変更し、繰り返し行っているそうです。

 以下、アンケートから①アルファベットが書けなかったりbe 動詞と一般動詞や動詞がわからない生徒が数名いる②三単元のSがわからない生徒はずいぶんいる、ということがわかりました。そこで文の構造を指導しながら基本的な10の英文を有無を言わせず覚えさせようとしましたが覚えられませんでした。一般動詞を定着させるために、動詞とは「う」で終わるものと説明し、朝起きてから学校に来るまで50の動詞を言わせたり、「夏の物語野球」という動詞で終わる日本語の詩を書かせたら、生徒から「何故英語の時間に日本語を書くんだよ」という質問もでたそうです。

 ある日の蠅たたきを使ったカルタ大会は大いに盛り上がったものの、その盛り上がりが次の授業に繋がらない難しさを感じるそうですが、それでも生徒は定時制に来て自分らしさを取り戻しつつあると聞いたとき、これは松岡先生の愛のある指導の賜物と思いました。

■レポート②『悪戦苦闘の6ヶ月を振り返る』(山城和美さん)

 山城さんは昨年大学を卒業し学習塾で教えていましたが、今年の2月から3月まで埼玉県で臨採教員を始め、4月からは草加市で臨採教員をしています。現在は1年生を2人の教師で小人数学級で教えています。自己紹介の中で今年の埼玉県採用試験に合格したとの話しがあり、参加者から大きな拍手が湧き起こりました。

 山城さんは文法指導の際、一方的に規則を教えるのではなく、生徒に規則に気づきかせるよう心がけています。そして気づきの後、「生徒が習った英語を使い、新情報を自らの力で聞き出す」ためのアクティヴィティを自己表現と考えています。例えば1年生のAre you 〜 ? の活動では、自分が将来なりたい職業を考えさせてQ&Aを行いました。その結果自分の将来の職業を伝えながら、友だちのなりたい職業を知ることにより、クラスの人に対して理解や関心を持つようになりました。

 山城さんは自己表現や他者との交流を通して、人間形成につながる教育をこれからも考えていきたいと述べていましたが、教師1年目でありながら、英語教育を単なる記号的なコミュニケーションではなく、もっと深いコミュニケーションを考えて英語教育をしていることに感銘を受けました。

 最後に山城さんから出された質問(①補習などで個別指導を求めてくる生徒への対応、②ADHDの生徒への対応、③アクティヴィティのとき男女が自然にペアになり活動する方法)をみんなで考えました。

 ①まずは全体の中で質問ができる力をつけるよう励ます。補習の最後に個人的に質問がある人は来るようにと声をかければ、その生徒の望んでいる個別指導にもこたえられる。

 ②通院先の医師と連絡を密にし、服用している薬の種類や服薬後の症状、またその時の学校(教師)の対応について学校全体で共通理解を持つ(薬が効いて眠り始めた場合には起こさずそっとしておく対応もあることを私は最近知りました)。

 ③日頃から男女のペアワークを組織して授業をする。インタビューゲームのような活動では「最低2人の異性とも活動すること」という条件を毎回きちんと設定しながら、始める前に班の中で男女ペアになり練習をすると、その後の男女の活動が自然にできると。

 山城さんは異性とのペアには高いポイントを与えて活動を促していますが、それも良いアイデアです。やがてポイントを意識しない活動に発展すると思いました。

  最後に参加者から一人ずつ感想を述べていただいて閉会しました。その中から最後に述べられた大学生の感想が、とても印象に残りましたので紹介します。 

 「これから私が勉強していかなければならないことが、ここに来るとすごく明確になってくるので、ここは私にとってとても大切な場です。」

 ことばには創造力があります。このことばを聞いて私たちはたくさんの元気をもらいました。そして次の例会も頑張ろうという気持ちを強くしました。

 (文責:大栗 健二)